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心の内に芽生えた黒い疑惑が身体を食い破り破滅を招く

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
オセロー
シェイクスピア四大悲劇のうちの1つ。
ヴェニスの勇将、ムーア人のオセローは、類い稀な美貌のデズデモーナの愛を勝ち取る。デズデモーナは父の怒りを買いつつも、愛するオセローの元に走る。深く結ばれたはずの2人だが、オセローは、邪悪な部下、イアーゴーの奸計に墜ちる。イアーゴーは自分を副官に起用しないオセローを憎み、自分よりも高い地位にあるキャシオーを嫉んでいた。キャシオーを追い落とし、オセローを苦しめるために、彼が考え出した策は、デズデモーナが副官のキャシオーと姦通しているとオセローに信じ込ませることだった。イアーゴーの策略にはまったオセローは、破滅への道を転がり落ちてゆく。

オセローはムーア人とされている。このムーア人というのは、黒人かアラブ人かで昔から議論があるようだが、黒人と解釈する方が優勢であるようである。オセローは非常に高潔かつ勇猛な人物として描かれる。北アフリカのいずれかの地の高貴な生まれであるようだが、奴隷の身に墜ちたり、諸国を流浪したり、艱難辛苦の後、現在の地位に上り詰めている。
デズデモーナはヴェニスの貴族ブラバンショーの娘。容貌、精神ともに一点非の打ち所のない美しい女性である。父の元を訪れたオセローが語る、若き日の苦労話に胸を打たれ、彼を慕うようになる。父の許諾を得ぬまま、駆け落ち同然にオセローの妻となっている。
副官キャシオーは、勇猛、高潔で思慮深いが、酒に弱いことが欠点。この弱点をイアーゴーにうまく利用され、知らぬうちに最初の躓きを味わうことになる。
そして二枚舌のイアーゴー。邪悪な性格だが、オセローやキャシオーをはじめとして、周囲には誠実な人物と思われている。だがその実、ムーア人であるオセローを蔑み、副官となったキャシオーに激しく嫉妬している。

シェイクスピア作品ではよくあることだが、この物語には原型があり、1566年にヴェニスで刊行されたツィンツィオの『百物語』第三篇第七話がそれとされている。巻末の訳者解題にその概略が記されている。

高潔な心に注ぎ込まれた邪な疑惑が徐々に徐々に膨らんでいき、ついにはまったく罪のないものの命が奪われる。
確かに悲劇ではあるのだが、賢い武人が邪悪な部下の本性を見抜けぬものなのか、いささかの疑問は残る。そのほか、イアーゴーがハンカチを手に入れる経緯や、有能な副官であるキャシオーがうかうかと酒を飲まされてしまうなど、ところどころ、この物語はどこかいびつで無理がある。イアーゴーが怖ろしい奸計を企てるのが、任官の恨みとムーア人に対する密かな軽蔑だけというのもいささか弱いようにも思う。
あらすじを読む限りでは、むしろ原作の『百物語』の方がありそうな話である。旗手(イアーゴーにあたる人物)はデズデモーナに横恋慕しているが歯牙にも掛けられず、それが引き金になるというものである。

おそらくはこの物語は、読まれるよりも演じられることで説得力を増す物語なのではないか。イアーゴーの華麗な語り、落ち度がまったくないデズデモーナの圧倒的な美、そうしたものを目の当たりにすることにより、観客の中で悲劇性が醸成されていくようにも思われる。語られていない部分、幾分不完全な箇所は、観客が物語に入り込むことで作り上げられていくようにも思われる。

冒頭、デズデモーナの父ブラバンショーの強い怒りが印象的である。腹黒いイアーゴーはここですでに言葉巧みに父の怒りに火を注いでいる。
「劫を経た黒羊があなたの白羊の上に乗りかかっている」
と。
黒と白が全般に非常に象徴的に現れるのだが、この物語の中では人種差別というほど強いニュアンスよりは、大きな障害を表しているようにも感じられる。もちろん、差別的な色合いは「ある」のだが。
乗り越えがたい溝を乗り越えたはずの、完璧な理想の愛が崩れる。それもごく卑しいものの手によって。
そこがこの物語の悲劇の最たるところだろう。


*シェイクスピア・シリーズとなりますか・・・?
『ロミオとジュリエット』
『ヴェニスの商人』
『ハムレット』
『マクベス』

*プーシキンの曾祖父のお話。経歴が少しオセローに重なるような気もします。
『ピョートル大帝のエチオピア人』
  • 掲載日:2016/08/19
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